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「♪我が恋は 細谷川の丸木橋
渡るに恐し 渡らねば 想うお方に 逢われない アーレコリャコリャ♪」 メゾン目黒川304号室の窓から、目黒川を見下ろしながら、元芸者の野田きつこは口ずさんでいた。 ここに住んで20年。 春の引越しは珍しくないが、この寒い時期に出て行く者はそういない。 東京の夢に破れて故郷に帰るか。 家業を継ぐため実家に呼び戻されたか。 あるいは、恋。 野田にいわせれば、世の中は辛いことと恋で出来ているらしい。 だからこそ工夫を凝らして人生を楽しむのだと。 恋が成就して男のもとに嫁ぐのか、 恋に疲れて住まいを変えるのか―。 「あの人は、どっちだろうねえ」 視線の先に、隣の303号室に住んでいた女。 白い花の咲く鉢を大事そうに抱えてマンション前に佇み、 意志の強そうな視線を通りに送っている。 やがてサッと片手を上げてタクシーを止めた。 ―どこで会っても必ず明るくにっこり挨拶して来る、良く出来たお嬢さん。 朝早くにスカッとしたスーツ姿で颯爽と仕事に出かけて行く時も、 疲れた足取りで階段を昇ってきた時も、 恋人と肩を並べて目黒川沿いを散歩している時も。 顔をあわせると、器用に笑顔を纏うけど……。 「辛いねえ、女は。はぁあ~♪」 ため息ついでに一節はじめた野田に気付いて、女は顔を上げた。 そこにはもう、隙のない笑顔が広がっていた。 ペコリと頭を下げ、明るくこちらに向かって手を振ってから、女はタクシーに乗った。
by koisurumadori
| 2007-08-13 10:00
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