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【プレストーリー】タカシのこと   TEXT BY 大九明子
【プレストーリー】タカシのこと   TEXT BY 大九明子_d0111057_1771559.jpg広葉樹は色が好き。
針葉樹はにおいが好き。

タカシに嫌いな物はない。
苦手な物なら山ほどあるが。

お父さんも好き。お母さんも好き。妹も好き。じいちゃんばあちゃんも好き。
山にいるのが好き。木を見るのが好き。木を触るのが好き。木のデッサンを描くのが好き木の勉強をするのが好き世界の針葉樹広葉樹を地域別に覚えて友達に自慢するのが好き。

彼の職場の人間は言った。
「大野先生、好きなこと職業にして幸せですね」
タカシもその通りだと思っていた。

ある日、苦手な物の一つを、タカシは好きになった。

その女はわかりやすく思えた。
あなたのお父さんも好き。あなたのお母さんも好き。あなたの妹も好き。あなたのじいちゃんばあちゃんも好き。
あなたと山にいるのが好き。あなたと木を見るのが好き。あなたと木を触るのが好き。あなたの木のデッサンを見るのが好き木の勉強をするあなたの姿が好き世界の針葉樹広葉樹を地域別に覚えて私に自慢するあなたが好き。

苦手なはずだったものを、この世で一番好きになった。
山よりも木よりも。

だけどうっかり、タカシはその思いを彼女に伝え忘れていた。
冬が嫌いなその女のために、冬花の鉢のプレゼントはしたのだが。

一緒に住むのは、ちょうどいいはずだった。
ちょうどいい空き部屋、ちょうどいい二人、ちょうどいいソファ。
好きな物と一緒の暮らし。

「―大野先生、言ってくれなきゃわかりませんよ」
タカシは我に返って男を見上げた。
「先生、緑色ELが足りないって、なぜすぐ報告してくれなかったんですか。
・・・もう間に合わないかもしれない」
何気ない愚痴は、えてして真理を語っているものです。

「トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・」
冬。女はなぜか電話に出ない。
―どうしよう、もう彼女の嫌いな陽の薄い季節だというのに・・・。
彼女は大丈夫だろうか。

「わからないなあ・・・」
わからないことは、かなり苦手。
わからないので、タカシは待つことにした。
by koisurumadori | 2007-07-26 17:07 | pre_story | Comments(0)
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